小川郷太郎
(折々の思い12)
延期された東京オリンピック・パラリンピック開催がいよいよあと半年を切ったが、コロナ禍が収まらない中で開催に対する国内外の悲観論や懐疑論が増えてきたように見える。日本の国内世論調査でも開催しないことを支持する人の割合が多数になっているようだ。フランスの友人から、東京オリンピックは2024年に延期してパリ大会は2028年にと順次延期すべきだとの議論がフランスに出てきていることを聞いた。フランスにはパリ大会実施の準備や資金の問題があるやにも聞いている。イギリスでも再延期論が出てきたり、日本が延期のシナリオも含めて検討を始めたとの報道もあった。しばらく前、私が尊敬するオリンピック・メダリストがオリンピックは本来世界が平和で安定した状況において開かれるべきなので、今回のコロナ禍の状況では開催すべきではない旨主張し、私はその点では半ば説得されかけた。でもいろいろ考えた結果、私はそれでも東京オリンピック・パラリンピックは予定通り開かれるべきだと考える。その理由を以下に述べる。
全日本柔道連盟は、感染者数が増える中で昨年12月に66kg級のオリンピック代表決定戦、全日本選手権、皇后杯を無観客で相次いで実施した。実施の決断や感染予防対策をはじめ準備が大変だったと思うが、成功裏に終了した。試合の模様はテレビの実況とYou Tubeで観戦できたので私もじっくり観たが、観客の応援や熱気のない中での静かな試合展開は、かえって技術の質の高さや試合展開の面白さを集中して観察できて大きな感銘を受けた。これは想定外の発見であったが、無観客でもスポーツの素晴らしをより深く味わうえることを知った。仮に観客数を大幅に減らしたり譬え無観客になったとしても、世界中のアスリートたちが実に命をかけて鍛え上げてきた高いレベルのスポーツの素晴らしさとそれを競い合う感動的な戦いをテレビやYou Tubeを通じて仔細に見ることが出来、それが世界中にもたらすスポーツの価値への信奉と競い合いを通じて醸成される国際友好親善の効果は非常に大きなものがあるだろう。スポーツの発展やスポーツを通じた国際平和のためにも本年の開催はぜひ実現されるべきだ。東京オリンピックを2024年に再延期するとの考えはその貴重な機会を遅らせる。
もちろん、オリンピックを目指し必死の思いで準備してきている世界中のアスリートに思いを寄せることも極めて重要だ。柔道修習者の端くれである私は、これまで私の知る多くの柔道選手たちが命をかけてオリンピックを目指し、心身の苦しさを克服して鍛錬してきたことを身近に強く感じている。昨年1年延期されたことが、柔道以外も含めた多くの選手たちにとても大きな苦悩を与えたことを感じている。自分の調子をオリンピック時にピークに仕上げようとしている世界中の選手たちに更なる延期はまことに過酷で不条理である。かつて我が国はじめ多数の国がモスクワ大会をボイコットしたことで、出場を予定していた選手たちに実に大きな苦痛と後々まで残る悔しさを与えたことも知っている。延期や中止は選手に対する極めて大きな不公正となる。
幸い日本政府も「コロナに打ち勝った証として」実施するとの決意を維持している。政府も組織委員会も東京都も実施の意志を堅持して連日知恵を絞り、多種多様な感染防止策を考え懸命に準備している。IOCのバッハ会長も1月下旬の記者会見で、延期は考えておらず何らかの形での開催に集中している旨述べた。
最大のコロナ対策をとってオリンピック・パラリンピックを本年予定通り何らかの形で実現することの意義、世界中の人々がスポーツの価値を再認識し、スポーツを通じた競い合いがもたらす国際的友好親善や平和への寄与のためにも、譬え無観客となったとしても実施すべきである。
(2021年1月31日)