小川郷太郎
(折々の思い14)習近平総書記の共産党100年記念演説を読んで
7月1日の中国共産党創立100周年記念式典での習近平演説要旨を読んだ。内容的には概ね想定の範囲内ではあるものの、以前にも増した感のする独善さと決意の強さに対して改めて中国への底知れぬ恐ろしさを感じた。
私は、かねてより近年の中国の気宇壮大な長期的戦略構想力と実行力に羨望を感じつつもその影響に恐怖感を抱いてきた。中国は、鄧小平の改革開放政策の成果を基礎に世界第2の経済を築き、それを背景に強大な軍事力を構築して米国に対峙せんとするようになった。「一帯一路」で世界中に自国に有利な政策を展開し、あるいは広範な海域に勝手に「九段線」を引いて南シナ海などの島嶼に軍事施設を建設したりする。常設仲裁裁判所が中国の領有権主張に根拠なく国際法違反との判断を下してもこの判断を「紙くず」と切り捨てて行動を改めない。米国がファーウエイなど中国企業に制裁を課して米国へのアクセスを絶とうとするやこれを機にしたたかに高度半導体技術育成の「自力更生」政策を強化する。7月11日付日経朝刊1面トップ記事は、中国が過去10年間アジアやアフリカの土地を囲い込んで農業鉱業分野での資源獲得に動いている状況を報じている。これも中国の長期的な深謀遠慮による行動だ。最近は香港の民主派を抑圧し「一国二制度」を破壊し、台湾統一は中国共産党の歴史的任務と称して軍事侵攻すら仄めかす。戦略とそれを実現する政策が実に一貫して揺るぎない。国内に問題があっても、どんなに国際的批判を浴びても、意に介しないで大戦略実現に向けて着々と進む、その勢いが恐ろしいのである。
今回の演説では「中華民族の偉大な復興」を大義として党の政策を正当化し自画自賛している。しかも「中華民族の血には、他人を侵略し、覇権を追求する遺伝子はない」「中国は常に世界平和の建設者であり、世界発展の貢献者であり、国際秩序の擁護者である」「中国共産党は平和、開発、公正、正義、民主、自由という全人類共通の価値観を守る。・・覇権主義と強権政治に反対する」との美辞麗句が並べられている。尊大で厚顔無恥振りには驚嘆するほどだが、党員や多くの国民はは熱狂的に習近平路線を支持する。
トランプ政権からバイデン政権に引き継がれたアメリカの対中政策により中国は相当の痛手を受けている筈である。さらに、中国の脅威への国際社会の認識が強まり、特にバイデン政権以降欧州や豪州、インドを含んだ対中連携網が形成され、日本も主要な役割を担っている。こうした対中国際連携の動きを意識してか、結党100年周年の天安門広場演説に臨んだ習近平氏は珍しく人民服を着て拳を振り上げて熱弁を奮った。総書記の決意に満ちた姿勢は、国際的批判や反中連帯に拘らずこれまでの政策を断固強力に推進するとの意思表示である。台湾統一を目指して軍事的行動に出ることも絵空事ではない。そうなれば尖閣諸島にも影響し日本は米国と一緒に対応することを余儀なくされる。
そのような事態は日米中いずれににとっても、また国際社会にとっても、深刻な事態をもたらすのでなんとしても回避する必要がある。けして容易ではないが、中国と関係国の間で外交的な話し合いを粘り強く繰り返すしか途はない。すぐにでも中国に対話を呼びかけ話し合いを始めるべきだ。この中で日本は独自の役割を果たす余地がある。
(2021年7月12日)