(折々の思い7)

米中対立の大きな禍根

 米中の対立が貿易上の対立から、技術覇権の争い、更には軍事を含む危険で深刻な覇権争いとなってきた。もともとトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策がとても単純な発想なので、意図した政策の結果はしばしばアメリカ自身に様々な不利益をもたらしている。自国の産業を守るために隣国や中国からの輸入に高関税をかけても国際的分業によるサプライチェーンが複雑に絡み合っているので、中国に進出しているアメリカ企業にも不利益をもたらすことがしばしばである。世界第1位と第2位の国同士の貿易戦争がチキンレース的にどんどん深刻化したため、いまやアメリカの製造業の力が低下する側面が出てきているようだ。両大国のやり取りを見ていると、中国は多大な不利益を受けながらも、実にしたたかで見ていて唸るほど狡猾にアメリカにやり返している。

 最近の例では、トランプ大統領が1億人のアメリカ人が利用しているというスマホの動画投稿アプリを運営する中国のティックトック(Tik Tok)の米国事業を閉鎖するかまたは米企業に買収させようと迫る中、中国は同国が得意とするAIのアルゴリズム(計算の仕方)を輸出禁止または制限しようとしているらしい。そうなると米企業が買収してもアルゴリズム抜きのアプリでは価値が大きく減退し、米国も大いに困るだろう。

 アメリカの行動の背景には、中国の様々な動きが自国の安全保障を脅かしているとの強い懸念がある。私もその懸念は理解し共有する。特に軍事面での中国の傲慢不遜な行動を抑制するには、たとえ首尾一貫性がなくてもトランプ大統領のような力が必要だ。しかし、経済面での行動は、グローバリゼーションのなかで綿密・広範に形成されてきた世界的な相互依存の生産・交易体制を分断(デカップリング)するもので、アメリカだけでなく、米中両国に多大な経済的利害を有している日本をはじめとする他国にも甚大なマイナスの影響をもたらし、世界経済全体の成長を損なうことになる。トランプ流のハッタリに中国がしたたかに対応するに従い、国際経済体制の分断は深まっていく。一旦分断された国際的なサプライチェーンに関係国企業が対応を余儀なくされた後に、これを元に戻すのは容易ではなく、分断は世界にとって実に深刻な禍根を残すことになる。

 日本は第三国として呑気に高見の見物をしている場合ではない。特に隣国中国が軍事的に強大化しアメリカと対峙しようとしていることから、アメリカの同盟国として集団自衛権を行使しうる立場の日本にとって、軍事的行動を余儀なくされる状況は排除されない。

 経済面・安全保障面での米中対立の現状は大変危険である。解決の方向は、米中間のチキンレース的対立の停止、話し合いと妥協しかない。具体的にどのように妥協しうるかについて名案はないが、これから日本の首相の交代と米国の大統領選挙があるからといって米中対立状況に対応する政治的猶予はない。日本は、他国とも連携して米中間の妥協を探る方向でしっかり関与することが不可欠だ。

                     (2020年9月16日)