(注)以下は2011年4月21日に行われた第3回「絆サロン」における法政大学の王敏先生の講演概要である。同サロンは私(小川)が以前に主宰していた会の集まりである。(文責 小川郷太郎)
第3回絆サロンは、4月21日、緑が目に眩しい日比谷公園を見下ろす日本記者クラブの宴会場で開かれた。 講師は、日中などの比較文化の研究で名高い法政大学国際日本学研究所の王敏(ワンミン)教授で、42名の参加者が熱心に耳を傾け、講演後の懇親を楽しんだ。
因みに、王先生は東日本大震災の後しばらく中国に行っていたそうで、非常に多くの中国人が震災を通じて日本に強い関心を寄せ、日本人の震災における行動などによって日本の良いところを理解し、それによって日本のイメージが相当高められたと語っていた。
先生が説明した日本人と中国人の間の主な違いには次のようなものがあるという。具体例が豊富で分かりやすい。
① 価値基準:中国では古来よりキツネは美女に化けて悪業をなし退治されたとの伝説があるが、同じ話が日本に入ってきてもキツネは人間の友達や農業の神様と見做されて稲荷神社などで祀られたりする。厳しさと優しさの価値基準が違うそうだ。
② 表現形式:日本人の言葉の少なさは、中国に限らず他の多くの国民と比べても際立っている(これは私もまったく同感で、明快すぎるくらいの中国人の強い主張と好対照だ)。日本のテレビドラマでもセリフの少なさ、間の多さが目立ち、日本人は以心伝心で理解し合う。日本でよく見る「謝罪会見」では、会社の首脳などがマニュアルに基づいてメモを読むように話す。中国人や韓国人もこうしたやり方を全く理解できないそうだ。
③ 物事の運び方:何か問題が起こったとき、中国では関係者で相談するが、その目的は解決したりまとめたりするもので、比較的短時間でトップダウンで方針が決まる。日本では多くの人との間で相談し、まとまらないことも多いが、日本ではその相談するプロセスが大事な要素になっている。
④ 美意識:中国では、万里の長城のように大きく壮大なものや中国国旗のように強い色彩のものが好まれるが、日本では、「わび」、「さび」、枯淡などが美しいものの要素で、一輪挿しが珍重されたりする。
⑤ 自然感覚:自然に対して日本人は、俳句に表れているように繊細な季節感をもって自然と共生しようとする感覚があるが、中国では「愚公山を移す」の発想にみられるように、自然を変えようとの意識がある。
先生のお話は続く。
日中間にはこのように似て非なる多くの違いがあり、それを発見することが重要だ。両国民は漢字を使うが、明治時代の日本は西欧の文化や科学を学んで、「幹部」「政策」「経済」など西欧的概念を表す多くの漢字語や「躾け」「働く」などの日本的概念の漢字を独自に創成したが、現在の中国はそうした日本製漢字を取り入れて使っている。こうして、漢字文化圏の屋根の下での自然な交流が生まれている。日中間には本来同質性もあり、論語のような教養も共有している。ともにアジアに身を置いて非西欧型の文明を模索する点もあり、グローバル化の中で互恵関係を築く要素も持ち合わせている。
他方で、日中間には戦争中、冷戦時代、さらには日中国交正常化後のそれぞれの時代において相互に誤解が存在した。日本が先行して発展したので双方間に格差もあったが、1978年以来の「改革開放政策」の効果もあり、85年には日本留学も解禁され、両国間に同時性や対称性も出てきている。
日中両国は、古典的な相手のイメージや戦争及び冷戦時代の記憶に拘ることなく、今日の経済面などでの利害関係も考えながら、互いに相手の文化にどう接するかを考えていくべきである。
両国は相互認識のパターンを改善することが望まれる。中国は、日本について、長寿の秘訣、食文化、生活文化などへの関心が高い。日本は漢字文化圏で筆頭の発展国として独自の使命もある。日本は現在の病的なまでの内向き志向から脱して、世界の文化を理解し受け入れ、世界との接し方を考えていってほしい。
以上は、一部に私の勝手な解釈もあるかもしれないが私が理解した先生の講演要旨である。
外国人に日本人のことを分析してもらうと、日本人だけではわからないことに気が付いて面白い。日中や韓国も含めた比較文化を研究する王先生の分析にはなるほどを思わせるところが多かったし、日中両国が相互の誤解を克服し共有できる要素を活用してグローバル化した東アジアで互恵関係を築いていくべきとの論旨に強く共鳴した。
そもそも私が先生に講演をお願いしたのは、これからの日本にとって、日中関係は日米関係に勝るとも劣らず重要で、日中間の協力関係を築くには相互間の理解や信頼が不可欠であるとの信念に基づくものである。私にとって、先生のお話は大変参考になったが、参加された皆様は、どうお感じになられましたか。
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