(注)以下は2013年10月の「絆サロン」の概要である。途上国で働く日本人ボランティアの経験談をお聞きください。
10月21日の第23回絆サロンでは3名のJICA(国際協力機構)ボランティアの方々から経験談を拝聴した。ボランティア活動は、強い意欲を持った人たちにはやりがいあるものだとあらためて感じた。とくに外国では面白いことが多そうだ。
御存じの方が多いと思うが、JICAは日本の政府開発援助(ODA)を担う中核的組織で、国内外に数多くの拠点を持ち、全世界の途上国で幅広い開発支援活動を展開している。技術協力、無償資金協力、有償資金協力(円借款)など様々な機能や手段を駆使して途上国の発展に貢献しているので、世界での知名度や評価も高い。その中でも技術移転を通じて途上国の自立を助ける事業は人を通じて行われるが、その一環としてボランティアの派遣がある。ボランティアとは具体的に、青年海外協力隊(20歳~39歳)とシニア海外ボランティア(40歳~69歳)である。とかく内向きな日本ではあるが、現在2200名の若者が青年海外協力隊員として、470名あまりのシニアが海外ボランティアとして、世界中の途上国で様々な職種の仕事をしている。意欲を持つ人たちは意外と多いのである。
今回のサロンでは、青年海外協力隊員としてタンザニアで頑張った笹野綾さん、シニア海外ボランティアとしてネパール、スリランカ、アルゼンチンの3カ国で活動した後藤俊吉氏、中国の大連に派遣された垣内美恵子さん(中国)の3名が、スライドで現地の様子を写しながらそれぞれの持ち味で興味深い話を披露してくれた。印象に残ったことをまとめてみた
振り返ると、仕事をするうえで任国のやり方を尊重することが大事であること、日本の化学企業の進出などの日本への期待が強いこと、途上国の技術者を日本で研修させることによりその国の技術レベルを向上させるだけでなく、技術者が帰国後日本の素晴らしさを現地の人たちに伝えてくれる効果が大きいことなどを感じた。
垣内美恵子:(日本では日本航空、JALコーディネーション・サービスなどを経て通訳、学校や企業研修の講師を務めたビジネスマナーの専門家の垣内さんは、67歳になって生きがいを求めてシニア海外ボランティアを志望。任務終了した現在、古希を迎えた由である。)
友人たちが「えーっ、中国?!」などと同情してくれたが、JICAがビジネスマナーの専門家派遣を要請したのは中国だけで、希望してくれた中国を有り難く思った。それで、派遣されたのは中日友好大連人材育成センター。赴任地の大連の港は戦争中日本軍が出入りした場所でもあるが、そこで中国初の巨大な空母をよく見かけた。江沢民の愛国・反日教育の影響などもあったし、今でも軍人をもてはやすテレビ番組もある。しかし、盧溝橋事件のことを展示する抗日記念館に行ったとき、日本に留学した経験ある若い中国の男性にとても親切に案内してもらったこともある。政府レベルでの関係と草の根レベルでの現実はこうも違うことを知った。赴任後3か月から半年ぐらいはちょっとどん底で、一時中国嫌いの気持ちも出たが、1年ぐらいたつといろいろなことがわかり、生き生きと仕事をすることが出来た。文化の違いもあって、中国では一般的に人に気遣いをしたくない傾向もありビジネスマナーを教えるのに苦労もあった。しかし、中国風のやりかたに慣れてくると心地よいと感じるようにもなった。中国の市井の人々は、心が優しいし、親切だ。家族間の愛も強い。日本に関心がある人や、日本を高く評価したり尊敬している人々も多い。中国にあって日本にないものも発見した。たとえば、急な予定の変更はいつもあるが、そのようなときやトラブルが起こった際の対応力にはとても強いものがある。生真面目な日本のやり方に疑問を感じることもある。人口の多い中国を収めることのむずかしさも理解できるようにもなった。
3名の方々は、いずれも未知の境遇の中で苦労も多かったが、結局は様々なことを発見し、現地の人々との友情を深め、そこでの仕事に生きがいを感じたようだ。共通しているのは、現地の状況にに自分を合わせ、それぞれの国の良いところをしっかり見て、それを学び、楽しんでいるように思える。結果として、御本人の人生の豊かな糧になり、また、任国の発展にも貢献したことを確信できる。日中関係は双方の国民感情の面で困難な局面にあるが、垣内さんの話からは、日本にいてはわからない中国人の日本に対する好意的な姿勢もあることを知る。やはり、現地に行って見ないとわからないものである。実は、人と人とが接し、事実や気持ちを確かめて親しくなることこそ、「絆郷」本来の目的でもある。
全体としてはまだ内向きな日本ではあるが、出来るだけ多くの若者やシニアが、海外でのボランティア活動の機会をつかむことを願いたくなる。
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