デンマーク社会の驚異的な現実

Judo Kizuna

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(注)以下は、2014年4月17日、私(小川)が主宰する「絆サロン」で、デンマーク在住の小島ブンゴード孝子さんに、語ってもらったデンマークの社会の様子で、日本人には興味深いことが多いと思う。

 
 
 第27回絆サロンは、4月17日、デンマーク在住の小島ブンゴード孝子さんに「高福祉国デンマークに学ぶ:人の生き方・老い方」と題して話していただいた。デンマークは私の在勤した国でも、人の生き方について、日本と実に対極的であるため最も新鮮な驚きを感じた国であった。小島さんは、1973年デンマーク人と結婚されて以来、この国に住み、日本との間を行き来しながら、社会福祉などについて幅広い言論・執筆活動を展開されている。
ブンゴード孝子さんのお話のサワリをご紹介しよう(カッコ内の感想は私のツブヤキです)。
 
(講演要旨)
 デンマークは小さくて大きな国である。北海道の半分の面積で人口は560万人。でも一人当たり国民総所得は世界第10位(日本は22位)。国連世界幸福度レポートによると、国民の幸福感はデンマークが156か国中第1位を誇る(日本は43位)。年をとるほどに生活の質が高まり、満足度が若い世代より高い。自分の生活を自分でコントロールできていると感じ、退職後の生活に不安があると思う人は60歳代、70歳代では5%以下である。(何とも羨ましい限りだが)そのデンマークのパワーはどこから来るのか。国が最も大切だと考えているのが「ひと」であって、人的資源のレベルアップやそのフル活用を目指して様々な施策をとっている。つまり、国が教育に最大の投資をし、良い労働環境づくりに努め、福祉や医療を整備する。国が人を活かし、ゆりかごから墓場まで支援をする。もちろんその政策の財源は、所得税(平均50%)、法人税(24.5%)、付加価値税(25%)が中心だ。高い税収のお蔭で、国は教育・福祉・医療を基本的に無料で提供できる。さらにデンマークは国内市場が狭いこともあって貿易立国だ。中小企業だが、コンテナー輸送、インシュリン、風力発電タービン、補聴器、豚肉、おもちゃのレゴなどの「すきま産業」の分野で世界トップクラスの市場占有率で稼いでいる。
 デンマーク人は人生を3つに分けて考える。第1の人生は人間形成の成長期で、遊び、学び、自分の芽を伸ばすことに努める。1歳からデイケア(保育所+幼稚園)で社会性を養う人間教育が施される(自立心もここから身につける)。小中一貫10年の義務教育があり、中等、高等教育があるが、デンマークではいたずらに進学するのではなく、職業専門学校に行って資格を取るなど社会生活に備える。無利子、無返済の奨学金も得られる。日本のような受験競争や就活はない(親の負担がない!)。大人になっても、いつでも全寮制の国民高等学校で自分に合う教育をうける機会もある。第2の人生は社会を支える生産期と考えて、自己実現や仕事と家庭の両立に邁進する。女性の就労率は76%と世界一高い。フルタイムで働く女性が約80%だ(様々な社会制度、男女協働の育児・家事などで女性は職場と家庭を両立することが可能になる)。第3の人生は退職後の人生の総まとめ期ととらえ、心の支えは家族にあっても、子に頼らず、同居もせず、自立し自分らしく生きようとする。デンマークには「定年」という言葉はない。自分が望むときやめる。平均寿命は日本より低い(男性78.0歳、女性81.9歳)が、健康寿命は日本人より高い(男性76.8歳、女性77.8歳)。
 こうして、デンマークのシニアでは、旅行や余暇活動への消費が増え、薬などの医療関係経費は減少する(2000年から2008年の間で可処分所得は65歳~74歳の世代で73%アップ、納税伸び率も60%アップ)。65歳以上のシニアのケア受給率は在宅ケアが35%、高齢者住宅やケアセンターが6.9%程度だ。だから、デンマークではシニアは社会の重荷ではなく、貢献者であるといえる。
 年金システムは、基本的保障と退職時の所得水準維持の二つの目的のもとで、4つの柱(国民年金、労働市場付加年金、労働市場年金、個人年金)でできている。これにより、シニアはほぼ支障ない生活を送ることができる。総人口の12%が参加するエルドラセイエンというシニアの全国組織があり、また、市のアクティビティセンターも利用者の自主運営による組織化がなされていて、これらを通じて多くのシニアがいきいきした活動を楽しんでいる。

 国と地方には明確な役割分担がある。国は国民年金や高等・成人教育、リジョン(地域)は医療に特化、市は福祉全般と義務教育を担う。国民健康保険はすべて税金でカバー、公的医療機関での医療サービスは無料である。高齢者ケアには、①自分で決めていつまでも自分らしく生きる、②今までのライフスタイルを維持できる継続性、③自分で出来ることは自分で行うことによる残存機能の活用という三原則があって、介護する人もされる人もこの原則を意識して守っている。北欧のセラピストたちが生み出した北欧式トランスファー(移動・移乗)介助のモデルがあり、これは介護する人もされる人どちらにも優しい介護方式である。
デンマーク人高齢者は、自分で決めて最後まで自分らしい生活を送ることが一番大切との死生観を持っている。最後はやはり自分の家で迎えたいと考えているが、その場合でも介護は家族でなくプロに見てもらいたいと考える。

(質疑の要約)
 50名を超えるこの日の参加者は興味津々に耳を傾け、講演後は多くの質問を行った。質疑応答を通じてさらに次のようなこともわかった。

1. ケアワーカーは大半が公務員。高い給与ではないが安定した生活が保障される。
2. 政権はときどき交代するが、国の根幹に関する政策は変わらない。
3. 家庭医の制度があり、定期健康診断はないが、家庭医が個人の健康を常に見ている。
必要があれば病院での診療が勧められるが、予約制なので日本のように待つことはない。
4. お墓は日本のように「○○家の墓」ではなく、個人の墓が基本で、生前から自分で墓を予約して借りておくことも出来る。
5. 「国民高等学校」という全寮制の学校が全国に70数校あり、若い人からシニアまでいつでも自分に合った教育を受けられる。
6. 若い人も親に頼る気持ちはなく、自分で築いていく意識がある。相続を当てにしないので親は自分の資産を使い切ることができる。親もあまり子を手助けすることを考えない。
7. デンマークのような規模だからできるが日本は真似ができないという見方もあるが、「自分らしく生きる」、そのために国や国民が連帯意識を持てばできることはあろう。共助・共生の考え方で、まとめやすいサイズで政策を実施していくことは不可能ではない。意識改革は大変だし、日本には行政に専門分野のプロが少ないが、政治の意志や指導力があれば人を変えていくことはできないわけではない。

 以上がデンマーク在住40余年の小島さんの解説である。小島さんのお話と2年9カ月ほどの私自身の在住経験からすると、デンマーク人は、幼児の時から自立心が養われていて最後まで自分で考え自立して行動することができる。それを可能にする環境をつくるのは、高い税収に支えられた国の制度である。それにしても、日本人にとって信じられないくらいで、お伽の国の話のように羨ましく思う。どうしてそんなにうまくいくのか。その点については、歴代政府の思想や政策が明確で一貫しており、国民も高負担・高福祉を支持しているからだろう。国民が政治を信頼している。日本はデンマークの真似は出来ないが、参考にすることはできると思う。

 

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