南太平洋から渡ってきたハワイ先住民の航路や太平洋のポリネシア諸島の文化やハワイ王朝の形成と転覆の歴史も興味深い。ここでは、この道何十年の旧知の浅沼さんがどんな質問にも懇切丁寧に解説してくれた。ビショップ・ミュージアムはハワイを知るうえで必見の場所である。 凄まじかった日本の真珠湾攻撃とハワイ日系人への甚大な影響 真珠湾に浮かぶアリゾナ・メモリアルは、日本の真珠湾攻撃によって沈められた戦艦アリゾナ号の上に作られた記念館である。艦内には多数の兵士がそのまま眠っている。当初は記念館に行って花を手向ける予定だったが、折からの強風で船が出なかった。それでも陸地側の施設では、日本軍攻撃時の実写フイルムが上映され、また当時のハワイやアメリカの状況が詳しく展示されているので、時間をかけてみることができた。とくに実写フイルムは日本ではなかなか見られないもので、攻撃の凄まじさを実感することができる。近くに展示された多くの写真もハワイや全米に与えた影響の大きさを物語る。 ハワイ日本文化センタ―で見た日系人の歴史の展示やアリヨシさんの回顧談なども併せてみると、真珠湾攻撃が日系人に与えた苦痛や甚大な影響を理解できる。当時の日系人はアメリカ市民であっても「敵国人」と見做されてキャンプに収容された。他方、若い日系人がアメリカへの忠誠を示すため志願兵となって、ヨーロッパ戦線に投入された。多数の犠牲者が出たが勇猛に戦い軍事的な功績をあげ、日系人への敬意の念を取り戻した事実もわかる。真珠湾攻撃によって開始された日米戦争。その無謀さとアメリカや日系人社会に与えた影響の大きさなどは、やはり現地に行ってみないと感じられない。
昨年は戦後70年だったが、三澤総領事によると、戦後続いていた真珠湾攻撃に対する厳しい日本への感情は、近年の日米関係の緊密化の中で少しずつ変わっているようだ。 自然の雄大さ、開放性、自然と人の心、ハワイに住みつく日本人 ハワイは何と言っても自然が素晴らしい。Big Islandと呼ばれるハワイ島一周遊覧ではキラウエアのハレマウマウ火口を見たほか、ブラックサンドビーチで砂の上にうずくまる海亀に出逢った。オアフ島巡りでは素晴らしい海や壮大な山の景色を楽しんだ。オプショナルツアーでココヘッドのハイキングに参加した人たちは、高いところから見る信じられないほど碧い海の色合いの多様さに感嘆した。 ハワイの風は心地よいし、すべてが開放的だ。真っ青な海を見ながらワイキキのハレクラニ・ホテルでの昼食。レストランには窓やドアがないので風が心地よく吹き抜ける。小鳥も中に入り込んできて、自然と人とが融和しているような雰囲気だ。温かい風が人々の心の中を通うような気さえする。実際、ハワイの人々の心は開かれていて、誰にも優しく親切だ。「アローハ」という呼びかけに象徴されている。 ハワイ州の人口構成は白人系は24%ぐらいで、あとは日系人、フィリピン系、ハワイアン系、中国系、韓国系など。多数の民族が混じり合い、総じて仲良く融和的に暮らしている。ハワイ島でがガイドをしてくれた日本人男性は、以前はアメリカ本土に住んでいたが、ハワイのコナに来てからずっとそこに住みついたという。村の人々がとても優しく助けてくれるし、生活のテンポが実に穏やかだからという。 ホノルルのヨットハーバーのレストランを借り切って現地在住の日本人を中心とするハワイシニアライフ協会の方々と懇親会をした。大部分の人がもう何十年の単位で住んでいるのは、自然や人々が優しいことが理由のようだ。かなりの高齢者でもとても若々しく見える。やっぱりハワイはいいらしい。もっとも、そのうちの一人は、永住しようと思っていたが最後は日本に帰ろうかと思うと述べていたが。 ハワイ王朝の悲劇の歴史 日本にいると知る機会は少ないが、ハワイには悲劇的な王朝の歴史がある。1795年にハワイ王朝建国を宣言したカメハメハ大王は1810年にハワイ諸島を統一し、その後ハワイ王朝が100年近く続いた。1881年にはカラカウア大王が日本に来て明治天皇に謁見し、日本とハワイの連邦化を提案した歴史もある。しかし、1893年に王朝は転覆されて滅亡し、その後ハワイは合衆国に併合された(1993年、合衆国議会は上下両院合同決議で併合の過程が違法であったことを認め謝罪した)。今回の旅行では、ハワイ王朝の流れを汲む組織の幹部で私のかねての親しい友人の案内で、ハワイ王朝廟を訪問した。王たちの墓の前で真摯に祈りを詠唱するこの友人のハワイ王朝への強い愛着や復権への気持ちを感じた。ハワイへの旅行者がほとんど行くことのない王朝廟訪問で、王朝の歴史に思いを馳せた。 ホノルルの美術館巡り 米国タバコ会社大手「キャメル」の創始者の一人娘、ドリス・デュークの冬の別荘、シャングリアの見学も今回の旅行の目玉の一つであった。2頭のラクダの彫刻の奥にシンプルな入り口。中はイスラムアートの宝庫。ハワイ在住の日本人学芸員のご案内で、ドリスの質の高い収集品と、こだわりの空間を思う存分堪能した。 またオプショナルツアーでは、タンタラスの丘の展望台からのダイアモンドヘッドとホノルルのダウンタウンを眺め、現代美術館スポルディングハウスの庭の散策、そして、ホノルルミュージアムを見学した。ホノルル美術館はアジア諸国の美術品が多く興味深かった。ジェームスミッチェナーの浮世絵コレクションは米国内でも最も優れたコレクションの一つで、日本で見られない広重の貴重な作品は、保存状態も良く、目を引いた。また、日本に長く住んでいたフランス人、ポール ジャクレーの版画の展覧会も興味深かった。 意外に多様なハワイの側面 今回の旅行に参加してくれた人たちは、通常の観光ではわからない様々のことが分かったと言ってくれた。でも、ハワイはまだたくさんの「顔」を持っている。 自然や人間が素晴らしいが、太平洋の真ん中に位置するハワイは人々の知的交流の拠点としての役割も果たしている。1年を通じて米本土やアジア太平洋地域から多くの学者や研究者が行き交い、ハワイの研究機関やシンクタンクとの間でシンポジウムや共同研究を続けている。 また、ここには米国最大規模の太平洋軍司令部があって、アメリカ西海岸からインド洋にかけた広大な地域の安全保障を担っている。日米同盟に基づく自衛隊との関係も緊密であり、日本の安全保障にとって死活的に重要な場所でもある。日系人や在住日本人たちのお蔭で、日本の存在感は大きい。島によって異なる大自然は多岐多様で面白い。ハワイは何度行っても楽しいし、何度も行く価値のあるところである。
(注)この記事について
数年前に私(小川)が運営していた「絆郷(きずなごう)」という会社では、原則毎年海外特別企画旅行を実施した。その趣旨は、私がかつて勤務した国や地域で興味深いところを私がご案内して、現地の人々に会い、その国・地域の良いところやにほんとのかんけいを知っていただくことにある。
この記事は2016年3月に実施したハワイ旅行のハイライトである。